『お前、死ぬんじゃないぞ。分かったか、約束しろ』
『…できない、そんな約束。家族とも離れて、誰にも頼れない中でどうやって生きろっていうのよ。どうせ皆もう…死んだのよ。もう、いないの』
家族と離れて身寄りもいない私は、どうしたらいいの?
誰にも…頼れないってこう言うことなんだな…
って言うかこの人何なの…?
『じゃあ聞くけど……
あなたは誰?
私をどうするつもりなの?
何が…したいの?』
困ったような顔をする彼。
おでこまで伸びた前髪。
筋肉質な体。
小柄だけど男の人なんだって思うほど、力強い何かを感じた。
そして、ポツポツと話し始めた。
『俺…バカだからそのまま言うけど…』
『…えぇ』
『お前、家族と離れたって言ったっけ?』
『…えぇ』
『俺もなんだよ。お前が地面に倒れてた時、もう生きる気力がないのはよくわかった。お前じゃなかったら、俺は自分だけで逃げたかもしれない…』
『…じゃあ、何で…?』
『さっきも言ったけど…好きなんだ、お前が』
彼は私に顔を向けて座り直した。
私も彼に顔を向けて座る。
『ずいぶん前だけど…初めて見た時から、その赤髪に惹かれて…』
思わず手をやる…
この髪の毛が…?
『お前の評判を知ってる奴に聞いたんだよ。いつも店の手伝いやってて、笑顔で優しくて、ご飯が上手くて。それで…お前がこの間、迷子の小さい子を母親の所まで届けてただろ…?そういう優しい所見て、俺は好きになったんだ。だけど、戦争が始まってから俺は疎開で東京を離れたんだ。そこも危なくなって……。東京に戻って来た。まだ昨日だ。そしたら、一気に家族がやられたんだよ。母ちゃん、父ちゃん、弟、妹…。生きる気力をなくしてたのは俺だったのかもしれない。だけど…お前が倒れてるの見たら、生きなきゃ、助けなきゃって思えたんだ。だから、俺は家族を守れなかった分、お前を守るって決めたんだよ…』
『………そうなんだ…』
『…あぁ』