茜side
「あっははは!!茜、可愛いー!!お酒なんて飲んじゃえばいいんだよ!みなみも飲んでるし!!あははは!!」
「そ~だよ!!茜飲めよー!」
私は未成年でお酒なんて飲めません!!
そう言い返そうとしたけれど、めんどくさいことになりそうだからやめよう…。大体、綾香も同い年なんだから未成年でしょーが…。

私、市川茜、高校1年生。
私の地元では県でも有名なお祭りを毎年やっていて、そこで繰り広げられる山車に乗って、太鼓を叩いたり、笛を吹いたり、伝統的なお祭り会に入っている。
まだお祭まで月日があるが、県外からも観光客が来る大きなお祭りなので毎月三回は練習があるんだ。
そして…必ずその練習の後には打ち上げと称した飲み会がある。とっても恐ろしい時間なんだ。強制参加でみんなが揃ってお祭り騒ぎ。おじさんも高校生も関係ない。とは言っても高校生はお酒禁止!これは破ったら来月にキツイお仕置きがある。
……綾香だいじょぶかな。
「ところでさぁ!!茜、まだ処女なん?!」
「んぐっ」
思わず飲んでいる烏龍茶を詰まらせてしまった。
しょ、処女?!
「そ、そんなの当たり前じゃん!」
焦って反論したけれどみんな大爆笑し始めた。
さっき処女なんて言ったの誰よ…。
処女、と発言した人を見る。
し、修治さん…。
修治さんは子供たちに太鼓を教える人。人懐っこい性格の持ち主。
そういえば綾香はお祭り仲間!
中学まで一緒。すんごいモテる!!今まで何人かと付き合って別れてるのを見てるし、本人も熱しやすく冷めやすいとのこと。綺麗なロングヘアは金髪で、身長がすらっと高くて細い。綺麗な顔立ちにバッチリとメイクをしている。

つ、疲れた…。
総勢35人がお祭り騒ぎをしている。
あつい…。
お酒の匂いがこもった部屋にいると頭がボーッとして暑くなってなんか苦手。しかも下ネタ連発。
別に清楚な子を気取ってるわけじゃないけど、なんか、高校に入ってキスとかエッチとかみんな話してるし、実際している子もいる。
私はエッチとか怖くてできないと思う。男の人の前で裸になるとかできないし、そういうのは結婚してからのほうが安全だし…。

って!私まで酔ってきた?
もんもんとお酒の匂いと暑さがこもっている部屋を抜け出し、外に出る扉を開ける。
今、実は春休みなんだ。もうすぐ2年生になる。
3月の夜の星空を眺める。
ひんやりとした風が頬をすり抜ける。
お祭りは7月なのに、一年中お祭りのメンバーといるような気分。
まぁ、実際毎月練習してるけど。

ガラッ!!
「?」
突然扉の開く音がした。
「………ぁ」
上谷先輩が壁にもたれかかって空を見上げていた。
そういえば上谷先輩もつまんなそうにしてたなぁ…。 
上谷先輩とは高校2年生。もうすぐ3年生になる。かなり身長が高くて、顔がかなり整っている。もう驚くほどに。モデルもびっくりするほどの美形な顔立ちだと思う。上谷先輩とは中学のときの部活がおんなじ、だけど一言も話したことがない。高嶺の花のような存在だったから…。
上谷先輩は市で一番頭の良い高校に通っている。なんだか完璧すぎて近寄りがたい存在。

話しかけようとか思わなかった。
なんだか疲れてたし、話すことないし。
イケメンだから何?っていうカンジ…
そんなことを思ってたら上谷先輩から口を開いた。

「なぁ、処女なの?」
「えっ」
下を俯きながら聞いてきた。
いや、別に上谷先輩は恥ずかしがって下を向いているわけではない。
「処女ねえ…」
と馬鹿にしているようにつぶやいた。
この人、顔がかっこよくて性格悪いのか…。
そんなことを思っているうちに私の目の前に来ていた。

「なっ、なんですか?」
「処女なの?答えろよ」
「………っ
答えられません!」
顔が熱くなってくるのがわかった。
「キスするよ?そんなこと言ってるなら」
「しないくせにっ!
処女ですよーだ!!」
「ふぅん…市川やっぱ処女だよな。」
身長の高い上谷先輩を、下から睨みつけた。
負けてたまるか!
そう思っていると上谷先輩が私の顎を掴んだ。
「んじゃ、キスもしたことない?」
ものすごく妖しげな顔をして尋ねてきた。
「え…?!」
ち、近いっ…!!
私と上谷先輩との距離は5センチくらい。
やばい、からかわれてる??
「からかってるんですか??!
や、やめてくださいっ」
ぐいっと抱き寄せられ、唇と唇を強制的に合わせられた。

……サイアク。
ファーストキスは最悪な形で犯されてく。
角度をどんどん変えるキスから、ぎゅっと結んでいた唇を割って温かいものが入ってきた。
「んんっ…」
上谷先輩の胸板を叩くも遮られ、腕を頭の上に組まされた。
「やっ…んんっ…」
必死に抵抗したがキスは終わらない。
だんだん頭がボーッとしてきて、上谷先輩を受け入れるようになってしまった。
そして気が済んだのか、長い長いキスが終わりを迎えた。

「はぁ…はぁ…」
顔が熱くなっていて息切れもしている。頭がボーッとして倒れそうになった私を上谷先輩は抱き寄せた。

「ちょっ…離してください!!」
「倒れそうじゃん」
「べ、別にだいじょーぶですっ!」

「けどさ、


みんなに見られてるよ?」
「んなっ!!」


横を向くと、お祭り仲間がいた。
「い、いやぁ、覗くつもりはなかったんだよ、ねえ?みんな?」
「まさかチューしてるとは…」
「んま!茜に彼氏がいるとわかって安心じゃね?」
「上谷も茜のこと愛しそうに抱きしめてるし?」

………え?
なんか公認カップル的な感じになってない?
上谷先輩は満足気な顔して、「ありがとうございます」とか言ってるし。
な、なんでこんなことになってるの?
え、なぜ?
上谷先輩否定しないの?
「上谷先輩とはなんにもな…っふごごごっ」
いきなり、ぎゅっと抱きしめられた。
「………茜」
頭上から声がした。
「邪魔しちゃ悪いねー!
茜と上谷残してかいさーーん!!」
「それじゃーな!!」
「茜がんばー♡」
それぞれ言いたい事を言って去っていった。
え、どうしよう。これは普通に広まるパターンだよね?なんで私が上谷先輩と付き合ってるみたいになってるの?
「………茜、」
「んむっ」
突然唇を奪われてしまった。
…2回目。
「もう!!なんなんですか!
「お前、今日から俺のな」
「な、なんで…」
「気に入った」
「知りませんよ!!」
「その潤んだ目で言われると苛めたくなんだよ」
勝ち誇った笑みを浮かべてそんなことを言い出した。
ちょっと待って、意味がわからない。
私は上谷先輩に気に入られたの?なんて不名誉な……。
このままじゃ上谷先輩に処女を奪われそう。そんなの絶対やだ。エッチとかすぐしちゃいそうだもん。
とにかく逃げるが勝ち。
「わ、私、帰る!」
震える声で叫び、一目散に逃走した。
上谷先輩の顔は見ないで、さっさと走りだした。

どうせからかわれてるだけ。

そう自分に言い聞かせて家に向かった。