「深夜に帰宅する夫が、帰ってこない日がぽつぽつと出始めた時、私は確信した――浮気いや、愛人を囲っている事を――でも、ぼろぼろの砂の城を守る為、知らぬふりを貫いた――」
「お帰り、ごはんは――――友達と食べた――ダイエットしてるからいらない――そう言って、自室に籠る子供達――私の配慮を利用しているかの様な夫の助長――」
「ラップに覆われ、冷えたまま棄てられる渾身の料理――報われる事のない、愛――」
「ひとつの家族の崩壊――」
「もう限界だった――とある夜、私はふらりと家を出た――私が家にいなくても、あの人達は気にも留めないでしょうね――」
「私の、滑稽な一人芝――観客など、始めからいなかったのだ――」
「なら――私は私の、私だけの幸せを追求する――――」
豪雨は止む事なく、りおんの躰を容赦なく濡らす――そのまましばらく歩き続け、名前も知らない雑居ビルの入口に吸い込まれ、しばしの雨宿り――。
壁に凭れたりおんは、無意識にスマートフォンを見つめる――。
「もっと早く、こうすれば良かった――」
儚げにりおんは呟いた――。