高校生活最初の夏休み。
私はとても幸せだった。中学のころからの親友と高校に入ってからできた友達、そして初めてできた彼氏。そんな人たちに囲まれて過ごした夏も終わる。夏休み最終日、私は溜めに溜めた宿題を前にして、頭が良くて真面目な親友を呼んで手伝ってもらおうかなんて甘えたことを考えていた。
私と親友の関係はいつもこうだ。私が親友に頼ってばかりで、親友はいつだって文句を言いながら私を助けてくれる。

そもそも中学で彼女と仲良くなったきっかけはクラスでいじめられていた私を学級委員の彼女が助けてくれたことだったのだ。最初から彼女に迷惑をかけていたんだと思うともう少ししっかりしようとも思うのだが、さすがにこの量の宿題を一人で終わらせることは不可能だろう。

そう考えて机の上にあった携帯を手に取り、履歴から彼女の名前を探す。見つかるのにそう時間はかからなかった。

そして発信ボタンを押そうとしたその時、部屋の扉が乱暴にノックされ、母親が部屋の中に飛び込んできた。

「ちょっと、それノックの意味ないから。ていうか乱暴すぎ」

私が抗議の声を上げるといつもならそれに対抗するのがいつもの母なのに、この日はいつもと様子が違った。
その空気を察して静かになった私に母は言った。それはとても重々しく、しかしすぐには理解できない言葉で、私は言葉を失った。

「奈々ちゃん、亡くなったって。学校の屋上から飛び降りて」

私の手から落ちた携帯がフローリングの床にぶつかって、空気を呼んだかのように小さく鈍く音を立てた。