「体鍛えてらっしゃるんですね。」

「あぁ、、、
野球少年だったんだ。

いまは
走ったり
筋トレばっかりだけど。」

「経営者は
体鍛えないと

心も鍛えられなくて、
正しい
判断が
できづらくなるんだ。

ごめんね、
変な話して。」

「いいえ!
とっても
楽しいです!
聴かせてください。」

「本名、舞ちゃんだったか。
舞ちゃんは

向上心が強いね。」


一ミリのメンソールの
たばこをふかす。

「いつもは
やめてるんだけど。」

笑いながら。

お世辞じゃない、
おべっかじゃない。

この人と
話すと
ワクワクする。

けれども
わたしも
バカじゃない。

このひとには
きっと
帰る場所があるのだろう。


余裕のある態度も

優しさも
だからこそ。

「結婚されて
長いんですか。」

「そうだね、
早かったから
十年かな。
むすめは
小学生だよ。」

時折
ブランクミューラーの時計を
見つめる仕草。

「そろそろ
帰りますか。

「そうだね、
俺も明日朝から出張だから。

つきあって
くれてありがとう。」

「いいえ。」


ブルガリの香水が

楽しい時間の
終わりを

切なくさせる。

けど、
お母さんの二の舞には。

やがて登る朝日の前に

アパートに帰ろう。