生意気女が私のむなぐらを掴んで、
拳を振り上げてもうだめだと思って目を瞑った、その時だった。

「もう、満足してんじゃねえの?」

生意気女の手を押さえて、
エナメルバックを左肩にぶらさげていたのは、
それは紛れもなく翼だった。

「・・・っな・・。」

生意気女は翼のことが好きみたいだった。
なので口出しできるはずもなく、
顔を真っ赤にしながら教室を出て行く。

「ごめ、ありがとう。」

自分から喧嘩を止めに入ったのに、
何故か涙を流しているのに気づいた私は、
慌てて涙を拭いて、そういった。

「いいよ、それより大丈夫?」

翼はくすくすと肩を震わせながら
笑うと私の頭をくしゃくしゃっとした。

「うん。」

私はそう言い残すと、
いじめられていた女の子のほうへ
立ち寄った。

「大丈夫???」

私は小さく微笑んで
白いセーターについた
ほこりをはらった。

「あ、はい、ありがとうございます!!」

それだけ言うと、恥ずかしかったのか、
教室を走り去った。