プルルルル

呉汰の滅多に鳴ることのない携帯が鳴った。
祖父母家からだった。

「ハイ。」
「あ、呉汰?」

呉汰の母からだった。

「どういうこと?家、何もないけど…??」
「あれ?あんた今家にいるの?学校は?」

お昼時、学校の時間、母にとっては当然の疑問だった。

「それは、別にいいだろ。」

話したくないことははぐらかした呉汰であった。

「何で、何もないんだよ。」
「それはね…、父さんが借金しちゃってね、けっこう頑張ってたんだけど…
なかなか返せなくってね。
 だから、おじいちゃん家に来てたの。
 家のものは全部売ったのよ。
 あんまり、借金の足しにはならなかったわ。」

母は淡々と言っていた。

「ハァ?どうして俺には何も言わないわけ?」

「…だって、忘れちゃったんだもの。あんたのこと!!」


けろっと、悪びることもなく母は言った。

呉汰は…一人息子は忘れられたのだ。
夜逃げに必死の夫婦は息子の存在など見えていなかったのだ。

結構、ショックを受けた呉汰だった。

「だから、あんたこれからおじいちゃん家においでよ。」
「うん…。」



何もかもがうまくいかない呉汰であった。