西の空は、鉛色の雲で空一面を覆われていた。

…この地は真冬と言えども、霜と見紛う程度しか雪が積もらない。

豪雪なのは山岳地帯のみ。

故に積雪したとて歩行が困難な程の事はない。

その代わり低温になり、夜ともなれば吐く息さえも凍りつく。

馬が睫毛を白く凍らせて、悪くなった視界を少しでもよくしようと瞬きを続けた。

そんな馬の首を撫でながら、俺はその背から、遠くの国から上がる黒煙を眺めた。

…また一つ、国が陥落したか。

女神国周辺は穏やかになったものの、少し領土を離れて西に向かえば、まだ戦乱は続いている。

あの国も近隣の軍事国家の侵攻に遭い、さしたる抵抗も見せられぬまま滅ぼされた。

王宮に火を放たれ、王族もろとも焼き落とされた。

あの黒煙は、王族の火葬の煙でもある。

…惨いものだ。

和睦は勿論、隷属さえも許さなかったらしい。

一度でも刃向かった者は徹底的に蹂躙する。

圧倒的な兵数と容赦のない戦術、戦略で、進軍の後には廃墟すら残さぬ。

西方諸国の戦は情の欠片すら感じさせぬと噂では聞いていたが、まさかこれ程までとは。

「…行こう。これ以上見るべきところはない」

俺は馬を走らせ、枯れ果てて凍てついた大地を駆け抜けた。