これは…誰だ。

俺は腕の中の、銀髪の少女に視線を落とす。

新雪のような美しい白銀の長い髪も、透き通るような白い肌も、今は汚れてしまい、所々凍りついてさえいる。

小刻みに震え続け、冷え切った体は血の通っていない人形なのではないかとさえ思わせる。

何より…その宝石のようだった生気に満ちた瞳は、光を失い、虚ろに中空をさ迷っていた。

こんな目を、戦場で何度か見かけた事がある。

目の前で、兵士である息子を失った母親。

あまりの受け入れ難い現実に、魂が抜き取られたかのように茫然自失となっていた。

それによく似ている。

恐らくは肉体への責め以上の苦痛…精神的な拷問を繰り返され、精神が崩壊してしまう前に、無意識のうちに心を閉ざしてしまったのだろう。

ここにいるのは乙女にあって乙女に非ず。

戦乙女の魂をどこかに失くしてしまった、ただのか弱い少女だった。

「……」

歯が砕けるほど噛み締める。

獅子王…貴様はどこまで非道なのだ。

奴が乙女に対して行った責めは、想像がついた。

奴の事だ。

乙女の語る理想、騎士道、そして彼女自身の人格をも否定し、彼女に数々の大罪を自覚させたのだろう。