縄を伝って小塔に到達。

俺は手近な窓に体を滑り込ませた後、石壁に突き刺さった魔槍を引き抜いた。

さて…。

素早く陰に身を潜め、周囲の様子を注意深く探る。

…警備の兵士が多い。

逆に言えば、やはりこの小塔に『大事な宝物』が隠されているという事だ。

無駄に広い王宮なのでどこから手をつけるか迷っていたが、手間が省けた。

早速行動を開始することにした。






人間というものは、その場に存在するだけで情報を周囲に漏らしている。

足音、衣擦れ、息遣い、体臭、気配。

無言でいてもそれだけの情報を出しているのだ。

その存在を限りなく無にする事で、相手に己の存在を気取られぬようにする。

それが潜入任務の極意とも言えるべき事。

潜入する場所の空気となり、影となり、違和感を決して与えない。

潜入任務は、言わば命懸けのかくれんぼである。

…壁の死角にへばりつき、背中越しに様子を窺う。

見張り兵の巡回の癖を見抜き、その癖の隙を突く。

全速力で走っても音すらさせない猫のように、無音歩行で通路を駆け抜ける。

気配を殺し、時にはわざと物音を立てて兵士の気を引き、その隙に先へと進んだ。