「フン」

俺は樹上から、獅子の国の王宮を見据える。

「あの小塔か」

獅子王め、馬鹿笑いが災いしたな。

ここまで聞こえるとは、まさに口は災いの元、か。

…俺はあらかじめ用意してきた縄の先端を、魔槍の石突の辺りにくくりつける。

そして槍を片手で担ぎ上げ、力一杯投擲する!!

高速で飛翔した槍は、見事小塔の石壁に突き刺さった。

…次に縄のもう一方を木の幹にくくりつける。

これで王宮へと侵入する準備は整った。

見張りの兵士どもも、まさか己の頭上を侵入者が横切るとは思いもしないだろう。

俺は縄を伝い、王宮への侵入を開始した。

…獅子王のあの笑いから察するに、事は奴の思惑通りに運んでいると思われる。

奴の狙いが何なのか…まぁ碌でもない事とは思うが。

手遅れにならないうちに、乙女を連れ戻さなければならない。

…縄を握る手に汗が滲む。

この俺ともあろうものが、この程度の潜入任務で緊張している訳でもあるまい。

そう考えて、俺は気づく。

…まさか俺は…焦っているのか…。

乙女が獅子王に囚われ、その身を傷つけられてはいないかと。

本気で心配しているというのか。