軍靴の音を響かせて、石段を昇る。

…この獅子の国の王宮には、俺と一部の人間しか入れない区域が幾つか存在する。

この小塔もそのひとつだ。

煌びやかな王宮とは違い、この小塔は蝋燭程度の灯りしかなく、昼尚薄暗い。

…闇というのは人間の精神を不安定にさせると、国の学者が言っていた。

ならば捕虜や敵国の密偵を幽閉しておくには、このような薄暗い小塔はうってつけではなかろうか。

もっとも、今回この小塔に閉じ込めているのはそのような小者ではないが…。

小塔の最上階にまで上がると。

「獅子王!お疲れ様です!」

見張りの兵士が姿勢を正した。

俺には直属の部下が何人も存在する。

女神国に送り出した使者然り、この見張りの兵士然り。

こいつらは表には出せず、公にすら出来ない『裏仕事』をこなす連中。

拷問、暗殺、諜報活動…まぁそんな類の仕事だ。

こんな戦乱の世では、騎士道だ誇りだと言ってもいられない。

綺麗綺麗でこの時代は生き延びられないのだ。

「どうだ、様子は」

その一言だけで兵士は俺の訊きたい事を察した。

「目覚めてからしばらくは酷く暴れてわめき散らしていましたが、疲れたようです。ご命令通り、眠りに落ちようとする度に氷水を頭から浴びせて目を覚まさせました。食事も水も与えておらず、かなり精神的に参っています」

「それでいい」

俺は笑みを浮かべた。

…あのような気の強い女は、肉体的に痛めつけても決して屈服しない。

まずは三大欲求のひとつである睡眠を削り取る事で、活力を奪い取ってしまうのだ。