「何?」

乙女不在の間に国の留守を預かっていた俺は、獅子の国からの使者の言葉を聞いて耳を疑う。

「同盟は成立いたしました。貴国の女王陛下は同盟の全権を獅子王に委譲、西方諸国との会談の為、単身西へと向かわれました」

玉座の間で片膝をついた獅子の国の使者は、恥ずかしげもなくそんな伝言を伝えた。

「馬鹿な!」

「そのようなたわけた話を信じろというのか!!」

臣下の者たちは激怒する。

当然だ。

乙女が俺達に一言もなく、そのような判断を下すわけがない。

それにああ見えて、乙女は女神国の事を何よりも案じている。

その国を放って単身西へと向かうなど有り得ない。

そのような任務であれば俺に命じる筈だ。

「私に怒鳴られましても…私はただ事実を女神国の皆様にお伝えするよう託(ことづか)って来ただけでして…」

ニヤリと笑みを浮かべる使者。

こいつ、獅子王の子飼いか。

大した役者ぶりだ。

「よかろう。伝言ご苦労だった」

俺の言葉に、他の者達がギョッとした。

「よいのですか!?紅様!?」

「事実を伝えにきたというのだ。これ以上何をする必要がある」

俺は表情一つ変えずに言う。

「それではこれにて失礼致します」

スゴスゴと引き下がる使者。

その使者に。

「おいお前」

俺は冷徹な眼を向けた。

「『事実』を伝えにきたのだな…?一つでも偽りがあった場合は外交問題だぞ…獅子王にも伝えておけ…」