そもそも、戦に正義などは有り得ない。

『正しい戦争』などこの世には存在しない。

あるのは両者の戦いを起こす大義名分のみ。

どちらもそれを正義と信じて戦っているだけだ。

だがどんな大義をかざしても、人を殺めていい正義など存在しない。

許される人殺しなどないのだ。

相手が敵であっても、罪人であっても、人の命を奪ったという事実が重くのしかかるのがその証拠。

命を奪うという事は、それだけで罪なのだ。

「しかし乙女。小国は…お前の国は侵略戦争を仕掛けられたのだ。それに対し、抵抗をするのは当然だと思わぬか?白旗を上げて植民地然とした扱いを受ける事が、お前の考える正しい選択か?」

「それは違う。侵略に屈する事は正しい判断ではない。だが…」

その為に敵兵を殺めていては、侵略者と同じなのではないか。

乙女の途切れた言葉には、そんな思いが込められていた。

「…せめて私は、理想に殉じる事で、その罪の意識から逃れようとしていただけなのかもしれない…騎士道、誇り、矜持…常々口にしてきた言葉だが…」

彼女は自嘲気味に笑った。

「ただの逃げ口上だと、獅子王に言われたような気がした。私が言っているのは、人殺しを兵士達に肯定させ、己の罪を誤魔化し、綺麗事を並べて彼らを自由に操りたいだけの…」

「もうやめろ」

俺は乙女の言葉を遮った。

「お前らしくもない。信念を曲げるなど」