獅子王という男、観察眼に劣るというか、理解力がないというか。

奴は乙女に対し、『大国との戦の折には、その名で騎士達を煽動し、理想を掲げて躍らせた』と言った。

しかも両親の復讐の為に。

既にその時点で誤りだ。

乙女は煽動した訳でも躍らせた訳でもない。

そもそも戦を仕掛けてきたのは大国の方だ。

乙女は守る為に戦っただけだ。

最終的に復讐は果たした。

だが、その為に自国の兵士を煽動した事は一度もない。

あくまで守る為の戦いしかしなかった。

「奴は都合のいい解釈をしているだけで、お前の事を何一つ理解していない。気にするな」

…王達が帰った後、俺は玉座の間で乙女に声をかけた。

「……」

彼女は玉座に座したまま、力なく視線を泳がせている。

獅子王の暴言が相当堪えたようだ。

「乙女」

「わかっている。わかっているが…」

乙女は俯く。

「如何に言い訳したところで、私は自らの意思で敵兵を殺め、自らの意思で兵を駆り出し、その結果多くの犠牲を出してしまっている」

「その事を気に病むというのか。馬鹿な。戦で兵は死ぬものだ。誰も傷つかぬ戦など有り得ない」

「ならば」

俺の顔を見る乙女。

「獅子王の言っている事も、あながち間違いではないと思うのだ…兵が死ぬ事を知っていながら、私は戦を止めようとはしなかった。私は…兵を見殺しにしたのかも知れぬ」

…それを言うなら、先程集った五人の王達は皆、自国の兵を見殺しにした。

乙女一人が罪の意識に苛まれる事ではない。

…乙女は、優しすぎるのだ。

一国の主としてはそぐわないほどに。