乙女はしばし思案した後。

「紅、近隣国に使者を送ってくれないか」

「近隣国に?全ての国にか」

俺は問い返した。

…女神国の周辺には、兵数十万の国が五つ、八十万の国が一つの、計六つの国がある。

内一つとは既に同盟成立済みであるものの、残る五つとは女神国とは敵対でもなく友好的でもなく、といった中立的な立場だ。

「同盟を結んでいない五つの国全てに、同盟を申し入れる」

乙女は言った。

「最早隣国同士でいがみ合って小競り合いをしている時ではない。せめて東方諸国だけでも一丸となり、これ以上の戦乱の拡大を阻止せねばならない」

乙女は拳を握り締めた。

「ようやく平穏な日々が訪れたのだ。また再び民衆に、戦火に追われる不安な日々を過ごさせる訳にはいかぬ」

「……」

俺はフッと笑みを浮かべた。

相変わらずの正義感だ。

聞いていて笑ってしまうほどの理想を振りかざす。

だが、だからこそ俺はこの夢見がちな少女の傍らにつく気になったのだ。

こういう馬鹿で真っ直ぐな女は、この戦乱の世には貴重だ。

こいつがいつまでも馬鹿な事を言っていられるように、俺が側で守ってやらねばならない。

「ん?何をにやついているのだ、紅?」

「失敬」

俺は表情を引き締めた。

「早速使者の手配をする」