「母さんには三間坂って爺さんのことは話したのかい?」

「話すわきゃねえよ。話したって、とても信じられることじゃねえからな」

「そりゃそうだな。しかしあの爺さん、ホントに何者なんだろう?」

「まあ普通の人間じゃねえのは確かだな。俺ぁ超能力者かなんかだと思うんだが」

「俺は時々ひょっとして幻覚かもって思うときがあるよ。しかも俺と父さんにしか見えない」

「う~ん…わからんよな、やっぱり。まあ何にしても、あの爺さんの言うことは充分信用できるってことだ」

すると竜太郎は笑いながら言う。
「父さん、爺さんに対するイメージがずいぶんと変わったもんだな」

「ハハハッ、まあな。おっと、ちょっと小便に行ってくらぁ。スッキリさしたらボチボチ寝るとするか」

「そうだね」



翌日、竜太郎は気晴らしに街へ出てみた。
源太郎と幸子を二人っきりにさせてあげようとも思ったからだ。

連休が終わった平日の午前中だというのに、街はなかなか人が多い。
都市化が更に進んだことを感じさせる。

繁華街をブラブラし、やがて街で一番大きなブックセンターに立ち寄る。
海外小説のコーナーを物色していると、見覚えのある顔に遭遇した。