竜太郎の顔には思わず笑みがこぼれる。
そして二人のやり取りを見て、やっぱり夫婦なんだな、と実感する。

互いに激しく言い争い、そして裏切った。
だが心はしっかりと繋がれていたのだ。

源太郎が幸子にずっと連絡し続けたり、お金を送り続けたりしたのは、決して罪滅ぼしのためではない。
また、幸子が離婚届をずっと出さないでいたのは体裁のためなどではない。
全て心の絆があればこそだったのである。

俺と里美は果たしてどうだろうか、と竜太郎は考える。

結婚生活は殆ど言い争いもなく平穏無事。
だが竜太郎は仕事ばかりに目を向け、挙げ句に里美は他の男に目を向けてしまった。

父と母のような心の絆は、残念ながら無い。
里美はサッサと見切りをつけた。
竜太郎は里美のことを踏ん切れないでいるが、それはただ単に突然一人になってしまった寂しさからなのだ。

長い年月が過ぎたら、おそらく俺と里美は互いのことをすっかり忘れ去るだろう。
この二人のようなマネは絶対にできない。
所詮それまでのものだったんだな。

竜太郎はしみじみそう思った。



竜太郎は二人に言う。
「晩飯まだなんだろう。寿司でもとろうか」