その声で幸子はやっとTV画面から目を離し、源太郎の方に顔を向けた。

「す、すまねえ」
そう言って源太郎は頭を下げる。

すると幸子は再びTV画面にゆっくりと顔を戻していった。

少し間ができる。

やがて幸子は、またもTVに顔を向けたままで言う。
「そんなセリフ、これまで電話で散々聞かされたさ。もう聞き飽きたよ」

その間、源太郎はずっと頭を下げ続けていた。
他に言うことがないかと考えるが、何も浮かばなかった。

竜太郎は二人の様子を黙って見つめる。
そして、いまはこの場にはいない方がいいかなと思い、腰を浮かしかけた。

すると幸子が再び源太郎の方に顔を向け、ぶっきらぼうな口調で言った。
「あんた、今夜泊まるとこあるのかい?」

源太郎は顔を上げ答える。
「いや、別にねえけど…」

「そういうのを何も考えずに来ちまったのかい?」

「ま、まあな…でもよ、そんなのいくらだってあるからよ。24時間やってる店で一晩明かしたっていいんだし。公園のベンチで野宿ってテもあるしよ」

「やめなよ、そんなの。みっともない。しょうがないから今夜はここに泊めてやるよ」

源太郎はもう一度頭を下げた。
「すまねえ」