竜太郎の表情は一向に冴えない。

源太郎は更に煽る。
「お前が小学校のとき、試しにラーメン作ったよな。覚えてねえか?あんときゃビックリしたぜ。こいつぁラーメン作りの天才じゃねえかって思ったくらいだ。素質なんてな、何年経ったってそんなに腐りゃしねえモンんだ」

「だからってやっぱりいきなりラーメン屋をやるわけにはいかないさ」

「まあお前の気持ちはわかる。でもよ、ラーメン屋をやれば成功するって、爺さんのお墨付きなんだぜ。やらねえテはねえよ」

それが問題だ。
竜太郎が踏み切れない理由の一つがそこにある。

成功する道が用意されていて、自分はただその上を歩く。
自分の意志などは関係ない。
竜太郎にはそれがどうにも釈然としないのである。

やがて竜太郎が言う。
「父さん、少し考えさせてくれ。いますぐは決められない」

源太郎はやや落胆の表情を浮かべた。
「まあしょうがねえよな」

「俺、まだ暫くはこっちでゆっくりするつもりだ。その間にじっくり考えてみる。ところで父さんは?またすぐ店に戻らなきゃいけないのかい?」

「いや、2~3日は休みをもらった」

「じゃ泊まるとことかは?」

「別に、決めてねえ」