話を聞き終わると、竜太郎はすっかり夜になった空を見上げてフーッと息をついた。

そしてポツリと呟く。
「ラーメン屋か…」

すると源太郎は目を輝かせて言った。
「そうだ、竜太郎。あの爺さんの言う通り、ついにラーメン屋をやるときが来たんだ。俺と一緒に『らあめん堂』を復活させようじゃねえか、なあ」

ところが竜太郎の表情はいま一つ冴えない。
それを見て源太郎は不思議がる。
「おい、どうした、竜太郎」

「父さん、いまの俺は会社でどんな立場にいるか知ってるだろ」

「もちろん。部長だってな、大したもんだ」

「こんな立場にいるのに、いきなり会社を辞めるわけにはいかないだろ」

「まあそりゃそうだ…」

「それにラーメン作りなんて全くのド素人なんだぜ」

「中学までは時々作ってただろうが」

「そんなの遙か昔のことだろ。だいいち指がしっかり動くかどうか」

「大丈夫だ、竜太郎。俺がそばにいてちゃんと教えてやる。お前ならすぐできる」

「そんな簡単にはいかないと思うよ」

「なんだ、ずいぶんと弱気だな。お前はな、本来スゴくいい素質を持ってるんだ。半年もみっちり鍛えりゃ、お前なら充分通用する」