「山田のお姉ちゃんって彼氏いるの?」


亜沙子の演技力に感動した。

本当に何も知らないって感じで自然に話を進めている。


「さぁな。同じ職場に好きな男はいるらしいけど、彼氏はいないんじゃね?ってか、どうでもいいだろ!俺の姉貴のことなんて!!」



同じ職場に好きな男がいるらしい?



でも、彼氏じゃない?




「悟!愛しの姉ちゃんがこっち見てるよ~!」


優雅の声に反応したのは山田じゃなく私。



市役所の4階の窓。


手を振る男性の姿…




『また明日』って言ってくれた。


言った通り、王子は私に手を振ってくれた。



「あの隣の男、姉ちゃんの彼氏じゃないの?」


優雅がからかうようにそう言うと、山田は席を立って、保健室に行ってしまった。




「山田のこといじめすぎだよ、優雅!」


私は廊下を寂しそうに歩く山田を見ながら言った。



「姉ちゃんに好きな男ができたからって機嫌悪いんだよあいつは。」



優雅は、灰皿王子の隣で一緒になって手を振る喫煙女に手を振った。



「俺のこと覚えてね~だろうな、あいつは…」




意味深な言葉を言い残し、優雅まで保健室に行ってしまった。



亜沙子の想像…

お姉ちゃんが大好きな山田は、一緒に暮らし始めた優雅にお姉ちゃんを奪われるような気持ちになり、優雅に反発し始めた・・・とか。


喫煙女は新しくできた弟の優雅に恋をして、

優雅も禁断の愛に、苦しむ。



「絶対ないない!昼ドラじゃん!そんなの。」


私は亜沙子の想像話をバカにしながらも、『ありかも』と思い始めていた。