「俺の?」
コツコツコツ
近付く足音に、私の心臓の音は激しくなる。
「もしかして、N高の生徒?」
灰皿王子は、眼鏡をさっと外し、胸ポケットへしまった。
「はい!!N高の2年の佐藤陽菜です!!!」
大声を出しすぎたと気付いた時には、もう王子が呆れたように笑っていた。
笑ってくれた。
「はいはい。これ、ど~ぞ!」
灰皿王子は、お尻のポケットから名刺入れを出し、そこから名刺を一枚取り出した。
手が震えた。
灰皿王子の手から私の手に
名刺が…
『生活環境課 清水晴斗』
しみず はると
やっと知った名前。
名前にぴったり。
私の心を晴れやかにしてくれる存在。
「ありがとうございます!!」
私はその名刺をじっと見つめたまま動けなくなった。
「悪用すんじゃね~ぞ。俺の貴重な名刺なんだから。」
ニカっと笑って、私の王子様は背中を向けた。
全然怖くなんてない。
わかるんだ。
優しいよ。
王子は最高に優しい。
いじわるな口調の奥に優しさがにじみ出てるよ。