「陽菜ちゃん、何見てんの?」
放課後になっても私は机に肘をついたまま、市役所を眺めていた。
そんな私の視界に割り込んできた優雅。
未だに、山田と優雅と灰皿王子の関係は謎のままだった。
その理由は明らかだ。
私が、亜沙子にこの調査の中断を申し出たからだ。
相変わらず、優雅の人気はすさまじい。
彼目当ての女子が、うちのクラスを覗き込むことにはもう慣れた。
間違えて私の机の中にラブレターが入っていたり、隣の席だと言うだけなのに、優雅の情報を教えてくれと声をかけられたりもした。
山田が彼女とうまく行っていないという噂もちらほらと耳にした。
私は自分に言い聞かせるように、毎日灰皿王子を見つめた。
『陽菜、灰皿王子には彼女がいるんだよ』
そう何度も言い聞かせたが、
私の恋心は、走り出したままだった。
毎日彼のシャツの色をチェックしていた。
と、同時にいつも隣にいる喫煙女の趣味の悪いカーディガンの色も目に入る。