俺は何がしたいんだろう。
陽菜ちゃんのことが好きなんだったら、これをチャンスだと思うのが普通だろ?
新井先生は、俺の目を真っ直ぐに見つめた後、泣き崩れた。
陽菜ちゃんに対する「好き」とは全く違った「好き」だった。
でも、ちゃんと好きだった。
大人な新井先生に、俺はどんどん惹かれて、夢中になった。
そんな俺を、新井先生は・・・利用したの?
清水さんと会えなくて寂しいから、俺を代わりにしていたの?
思い出したくないのに、思い出してしまう。
新井先生と一緒に過ごした放課後の思い出。
一緒に弾いたモーツアルトの曲。
握った手の温かさ。
音楽室から出て行った清水さんの後を追いかけた。
ここで、新井先生をなぐさめることは簡単だ。
でも、それをしても、俺はまた辛くなるだけ。
俺は、少し寂しそうな清水さんの背中を見つめながら廊下を歩いた。
この廊下がこんなに長いと感じたことはなかった。