「俺の好きな女、誰かわかったか?」
王子はまた前を見つめたままそう聞いた。
・・・好きな女・・・その響きに胸が痛む。
私はゆっくりと声を出さず頷いた。
王子は横目でそれを見て、「そうか」と言った。
亜沙子が言っていたように、真実を話してしまえれば・・・
こんなに苦しくないのに。
「話したことはないですけど、綺麗な人ですね。」
私は、新井先生の笑顔を思い出す。
性格は知らないけど、やっぱり綺麗で、完全に私の負け。
キキキキッ――――
くねくねした坂道を上った所で、王子が急ブレーキをかけた。
「あほかぁ、お前は。」
ハンドルに両手を乗せたまま、王子は顔をハンドルに埋めた。