さすがに7月にもなれば、ベストも着ていない。
チェックの半そでシャツを着た小早川が、目を合わせずに、亜沙子に本を渡した。
「藤壺について詳しく書いてあるから。」
そういえば、関心がなくてよく覚えていないけど、亜沙子は源氏物語の中で「藤壺」って人が一番好きだって言ってたっけ。
確か、禁断の恋・・・みたいな。
「あ、ありがとうございます。借りてていいですか。」
亜沙子の表情は正直だ。
赤く染まった頬と、ゆるんだ口元がかわいくて、思わず亜沙子を抱きしめたくなった。
きっと・・・小早川も同じ気持ち。
今、亜沙子をかわいいと思ったはず。
「お、おお。他にもいろいろあるから、良かったらまた借りに来なさい。」
小早川は、照れ臭そうな顔をして、廊下をスタスタと歩き、隣の教室へ向かう。
「亜沙子――――!!」
「陽菜ぁ!!!」
私と亜沙子に挟まれたうさぎの「はるちゃん」はちょっと苦しそうに、ピューっと鳴いた。