「亜沙子は、小早川に彼女がいたら悲しい?」
私は王子のいない市役所の階段を見つめながら言った。
「うん。多分泣く。でも、いるんだろうなって思う。」
私が思っていた以上に、亜沙子の小早川への恋は深かった。
「ねぇ、亜沙子が古典の成績だけ良いのって、小早川の影響?」
亜沙子は現代国語よりも古典がずば抜けて成績が良い。
源氏物語をいつも鞄に入れている亜沙子は、やっぱり本気の恋をしてるんだね。
「ふふふ…どうだろうね。でも中学の頃は源氏物語なんて興味なかったな…」
恋をするって不思議。
新しい自分を発見したりする。
私は、カーテンを閉めた。
一瞬見えた影。
市役所の階段に現れた2つ並んだ人影を見る勇気がなかった。