「ごめん、陽菜・・・無理だよね。」


亜沙子は、返事ができない私を見て、謝った。



「結局私達は、子供ってことなのかな。大人の世界には入れないんだよね。」



亜沙子は、秘密ノートに書かれた小早川の絵を消しゴムで消した。




「あきらめるよ、私。」


亜沙子の涙が、その上に落ちた。





小早川の気持ちも王子の気持ちも新井先生の気持ちも・・・


なんとなくわかるような気がした。




一人だけを愛するって難しいことなのかな。



みんな心の中でいろんな感情と戦いながら、苦しんでいるのかな。




新井先生を悪く思えなかった。

悪く思いたくなかったのかも知れない。



王子と約束をしていながら、小早川にも手を出す悪女、とは思えない。


王子が私を少し好きになってくれたように、新井先生も小早川を少し好きになったのかも知れない。


でも、やっぱり新井先生も本当に愛する人が誰か気付いたんだ。


だから、小早川に別れを告げた。



勝手にそう妄想して、私は楽になった。


新井先生が悪い女だとしたら、私はまた王子を追ってしまうから。



もう恋は疲れた。



この心にポッカリと開いた穴が、埋まる日をじっと待つしかない。