後ろから近付いて、俺は彼女の頭に手を伸ばした。ふわりと、優しい香りが漂って、俺は、情けないくらいに視界が震えていることに気づいた。 「───ス……、イ」 顔を上げる。 その瞳は、あの頃となんにも変らない黒い綺麗な瞳。───シキだ。 ───シキが、ここにいる。 そう思った瞬間、俺はもう抑えきれなかった。 ぎゅうっと、唐突に、彼女を抱きしめる。冷たい。でも、温かった。