わたしは、ほっとしてしまいました。

 わたしには、生きる意味がありません。生まれてきた意味も、生きる意味も、分かりませんでした。

 家族に迷惑ばかりをかける日々。いつ見放されてもおかしくないと、思っていました。だから、悪いと分かっているけれど、分かっていたけれど、わたしはほっとしてしまったのです。


 そんなとき───わたしの病室へ迷い込んだのが、9年前、車にはねられて入院していた、スイ、きみでした。


 きみは、いろんな話をしてくれたよね。

 春にはこんな花が咲いていて、夏はいろんな虫がいて、秋はおいしい食べ物があって冬は雪だるまを作って。

 
 嬉しかった。きみと話すことが、こんなにも楽しくて、嬉しくて、泣けてしまうくらいに、すきだった。

 
 わたしは、きっと、もう、自分がだめだと分かっていました。自分がもう、持たないことくらい、分かってしました。だから……きみに、我儘を言ってしまった。


 ……学校に、行ってみたい。


 って。


 きみは二つ返事でぼくに任せてと、言ってくれました。わたしはね、そこで、きみに言うつもりだった。


 「もう、逢えないんだって」


 でも、それは、叶わなかった。