「それじゃあ、俺は……っ、俺は、」


逢いたいって、彼女に言った。一度でいいから、きみに逢いたいって。

もし、俺が彼女と会ったことを、喋ったことを、笑ったことを、照れあったことを、さりげないすべてを───記憶から、〝消滅〟させているとしたら……?


忘却じゃない。

忘れたんじゃない。忘れたのなら、思い出せるはずだ。でも、俺は思い出せない。

どこかでストップがかかってるみたいに、彼女のことを、ぽっかり空いた記憶を思い出そうとするたび、頭が割れたみたいに痛くなる。



消滅させた、記憶を消したんだとしたら。



「……あ、あぁ、あ」



今までのシキの動向がパズルのように、はまっていく。

初めて彼女に逢った、あの静かに泣くような雨が降った、あの日。非常階段で泣く彼女は、俺を見て、なんていった?