呆れたように笑えば、ヒロは満足そうに頷いた。
「行っておいで。
俺たちのお姫様。」
近づく唇に反射的に目をつむれば柔らかな感触が瞼に触れた。
離れたそれに瞳を開ければ、綺麗に笑ったヒロがいる。
「お姫様、なんてガラじゃないんだけどね。
まあ、言うとするなら…。」
す、と目を細めて微笑む。
「お姫様を奪還する王子様、じゃない?」
冗談めかしてそう言い、ヒロの手から瓶底メガネを奪い返す。
それを装着して踵を返し、そのまま扉に手をかけた。
「…ヒロ、ありがとう。
必ず、奪い返すから。」
振り向きざまにそう言って、部屋を出る。
閉まる扉の向こうに見えた、最後の映像は悲しそうなヒロの顔だった。
なぜあんなに悲しそうなのか、まったく理解ができない。
あ、なんかの番組見逃したとか?
…うむ、あいつならそれくらいであんな悲痛な顔しそうだ。
さて、と…。
また根暗で地味な“夢”にならなきゃな。
おずおずといったように小さな歩幅で入学式が行われる体育館へと向かう。
そろそろ開会式だというのに、廊下に群れている奴らはぎゃはは、と下品な笑いを響かせていた。
俯きながらその面子を横目で見ていく。
…たしか、あれは最近できた黒無とかいうグループの頭でその隣がそこの姫。
おそらく周囲もメンバーだろう。
視線を滑らせて別のグループを見る。
やっぱり、聞いたとおり暴走族が多いんだな。
しかもあたしの目的である族の傘下が多い。
まあ、三下には用はないわけだし奴らと同等の、同盟グループが少ないだけ面倒臭くはないか。
周囲を観察していると、すぐに体育館についた。
コソコソと中を覗き込むと、意外と人がいた。
まあ、もちろん大人しく座っている奴らなんかいないんだけど。