昨日、完璧に覚えた地図をもとに廊下を進んでいくが、とても居心地が悪い。


廊下に屯している柄の悪い男どもや数の少ないケバケバしい女どもがこちらを見て下品な笑みを浮かべている。


あたしは今、この学校にそぐわない地味さだもんな〜。


多くの視線を得ながらも、無事に目的地である『理事長室』へ到着した。

絡まれたら面倒だったし、よかった〜。


コンコンと軽くノックしてみれば一秒ほどで立派な扉が開いた。


「やーっ、よかった‼︎
無事に辿り着いたんだなっ、る…‼︎」

「っわぁぁあ‼︎」


まだ廊下だというのに、大声で本名を言おうだなんてっ‼︎

思わず出てきた相手の口を押さえて周囲を見渡す。

よかった…この辺は職員室があるからか生徒がいなかった。

ほ、と息をついて身長差のある男、紘翔【Hiroto】を睨みあげる。

…分厚いメガネのせいで気づいてないらしいけど。

とりあえず抱きつこうとするヒロをグイグイと押しやり、扉を閉めてから睨み直す。


「学校で名前呼ばないでって言ったじゃん‼︎」


「…本当にルナだよな?」


あたしの姿をマジマジと見て、驚いたように聞くヒロに正義の鉄拳をくわえた。

…ら、だいぶ吹っ飛んだ。


「ってぇええ‼︎
なんで⁉︎
今なんで俺殴られたの‼︎⁉︎」


「よぅし、おバカなおバカなヒロくんのためにもう一度、実際には三回目くらいだけど言ってやろう。
学校で本名呼ぶな‼︎」


キッと睨めば、今度はしっかりと殺気も伝わったらしくほんの少し、綺麗な顔を歪めた。


「悪い。
だから殺気をしまってくれ。」


「そう。
まあいいや。
あたし…私、ここでは井原 夢【Ihara Yume】って名前にするから。」


「ふーん。」


興味のなさそうな返事にむう、とすればヒロはするっと私からメガネを取った。

鈍かった視界が一気に明るく広がり、思わず眉を寄せる。