「ルナぁ‼︎
こっちは粗方片付いたー!」


「んー。
こっちも終わったよーん。」


グーッと伸びをしながら一回転する。


「…なんか呆気なくなーい?」


そう言った直後だった。

10mほど先で対面していた仲間の顔が恐怖に歪んだ。

何人もがあたしの名前を叫び、こちらに手を伸ばす中、あたしの耳が捉えたのは聞き飽きたというほど毎日隣にいる声だった。


「っ、ルナ‼︎‼︎‼︎‼︎」


振り返ると、彼女の後ろ姿。

飛び出してきたかのように空中を走っていた。

いや、そう見えるほど視界はやけにゆっくりとしている。

遅れて聞こえたパァンッという乾いた音。

彼女の長い髪が揺れてその細い肢体が地面に倒れて行く。


「…ハル。」


ようやく絞り出した声は、情けないくらい小さな声だった。

さっきまで、あたしの名を呼んでいた仲間は大きな声でハルの名を呼ぶ。


深い怒りを孕んだ瞳で銃口をこちらへ向ける男を抑えに行くやつ。

倒れたハルの側に走り寄り、ひたすらに名前を呼ぶやつ。


そしてただ呆然と立ち尽くすあたし。


よたよたと、どこを歩いているのか理解できないまま足を動かす。

3メートルもないそこへ向かうのに、何時間も費やした気がする。

多分、一分くらいなんだろうけど。


「…ハル…?」


ああ、喉がカラカラでうまく発声できない。

ちゃんと聞こえているのだろうか。


浅く荒い呼吸を繰り返し、苦しそうに目を閉じていたハルが、弱々しくあたしに手を伸ばした。


その瞬間、弾かれたように彼女の傍らへと座り込み、ぎゅうっとキツく抱きしめた。


ようやく理解できてしまった。

彼女は、ハルはあたしの代わりに撃たれたのだ。

真っ白なワンピースを汚す赤がその証拠。


理解すればするほど、意識がボウッとして涙が視界を邪魔する。


「…る…な…。」


優しく、震える手が傷を凝視していたあたしの頬を撫でた。


「っん…。」


急いでハルと目を合わせれば、心配そうに顔を歪めた。


「どこ…か…痛むの…?」


呼吸がどんどん上がっていく。

うん、痛いよ。

すごく痛い。

身体がバラバラになった方がまだ楽だと思えるくらいに。


「ルナは…どこも、怪我してないから…。
あたしの、痛み…受けないで…。」


ハルの言葉で気づく。

そうか、あたしはハルの痛みを受けている。

ハルの怪我の痛みを感じ取っているんだ。


「ハル、ハル…っ。」


「だいじょ…ぶ…。
そばに、いるからね…。」


あたしの涙をその細い指で絡めとり、彼女は瞳を閉じた。


「っやだ、やだぁ…!!
やだってばっ、ハルぅっ!!」


「ルナ!!
一旦離れろっ、救急車来たから!!」


ハルにしがみつくあたしを、仲間は羽交い締めにして引き剥がしハルを搬送させた。




目の前で起きたことが信じられなくて。

なんとしてでもハルの傍にいたくて。


仲間相手に本気で暴力を振るうほどに、あたしは狂った。