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思えばあたし、藍咲 月【Aisaki Runa】は、一人の時間はないと言えるほど少なかった。

その時間は精々トイレに行った時と仕事の時くらいだったなぁ、と今では思う。


母の胎内にいた時から、あたしは一人ではなかった。

双子の対である藍咲 陽【Aisaki Haru】がいたからだ。


ある特殊な容姿のせいで、周囲から嫌われ蔑まれようとも、友達が誰もいなくとも。

あたしは全く悲しくも寂しくもなかった。

陽はあたしの何もかもを理解して、あたしも陽の何もかもを理解した。

そんな最高の理解者がいた状況に、あたしは甘えていたのだと思う。

言葉を放つよりも先に望み通りに動いてくれる陽。

もちろん、あたしも同じように動いた。

時にはお互いがお互いの手足となり、ストッパーとなる。


家族は愛しているけれど、やはり陽とは比べられない。

赤の他人なんて以ての外。

人間として必要なコミュニティを欠いても気づかないほど、あたしたちは満たされていた。

それほど異常なものだと、周囲も気づかずにいた。


そして、事件は起きたのだ。



「え…?」


「だぁかぁらぁ‼︎
彼氏ができたの‼︎」


学校も終わり、いつもの喫茶店『veil』の窓際でふわふわ揺れるカーテンを見ながらカフェモカを飲んでいた。

満面の笑みで微笑む彼女はとても幸せそう。


「っぼ…。
ボーイフレンド⁉︎」


「あはっ、ルナー、それ若干死語ー。」


照れ隠しのように、そう言って笑う彼女にあたしは抱きつく。


「おめでとー‼︎‼︎
そっかそっか‼︎
こんなじゃじゃ馬を彼女にしてくれる人が…‼︎」


「ルナよりは大人しいよーだ‼︎
というか、止めないのね。」


「んー?
止めるわけないじゃん‼︎
ハルが決めた人なんだから絶対いい人でしょおっ‼︎
信じてるもーん。」


「ふふー。
あたしもルナは信じてくれるって信じてた‼︎」