「3度目はねぇよ…?
起立。」


そのひっくぅい声に圧倒されてか、みんな一斉に立ち上がる。


「礼、着席。」


ありえないほど大人しく着席したクラス中に、思わず噴き出しそうになる。


「はい、とりあえず自己紹介ですね。
俺は、神崎 葵【Kanzaki Aoi】です。
では、出席確認します。
相田。」


「はっ、はい‼︎」


あらあら、明らかに怯えているよ。

第一自己紹介短すぎるし…‼︎


堪えきれなくて、バレないように俯いてくすっと笑った。

“私”は三番目だからすぐ呼ばれるなあ、なんて呑気に思っていたらすぐに2番目も終わった。


返事をしようと構えていると、カツカツと教師は近づいてきた。


え、え、え…?

なんだ…?


突然のその行動に、他の生徒の注目も集まる。

ピタリとあたしの前で立ち止まった教師。


ハッ…‼︎

そうだっ、“私”は臆病なんだから怯えなきゃ…‼︎

ふるふると、小さく肩を震わせ、俯く。


「顔を上げてください。」


その声にもビクッと大きく肩を上げてゆっくりと恐る恐るといったように見上げる。


…あれ?

なんか、近くで見るとどっかで会ったことのあるような…。

あたしの右斜め前に立ち、ゆっくりと口角を上げる教師。

あたしの席は一番端だから、この表情は誰も見えていないだろう。


じっと、メガネの奥の瞳を見つめる。

鋭い、ダークグレーのような薄い黒の瞳…。


…‼︎‼︎‼︎


彼の正体に気づいて、思わず息を呑んだ。

彼も気づいたことに気づいたらしく、昔のように柔らかい笑みを浮かべた。


全く…ヒロに聞いてないんだけど…‼︎


そんな不満を言いながらも、久々の再会は嬉しくて思わず顔が綻ぶ。


「伊原…さん。」


「…はい。」


さっきの対面ってこのことだったんだ、なんて理解しつつ去って行く彼、そーちゃんの背中を見送ってから俯いた。