『佐伯 哉汰』


静かになった愛奈に疑問をもって視線を移すと、さっきあたしが釘付けになってた名前を笑顔でじっと見つめる愛奈がいた。


…ふふっ、なんて欲に塗れた笑顔。

こいつの目的はなんとなく理解できた。


…別に邪魔もしないけど。


そんなことを思っていると、愛奈がこちらを振り返った。


「夢ちゃん、教室ついていっていい?
どうせ自分の教室に行っても一人だからつまらないし…。」


「もっ、もちろんです…‼︎
いいんですか…?」


「ほんと‼︎⁉︎
嬉しい‼︎
私、夢ちゃんとならもっと仲良くなれる気がするの‼︎」


あたしには、『夢ちゃんってもっと利用できる気がするの‼︎』としか聞こえないわ。


メガネの下では冷たい目で見つめるけど、表情は嬉しそうに綻ばせた。


「じゃあ、早速教室行こう‼︎」


ウキウキとした彼女に手を引かれ、私のクラスである1ーCに連れて行かれる。


教室の中に入ると、やっぱり派手派手しい男女で溢れていた。


けど、その中でも中心にいるようなオーラ溢れる男たち。

…佐伯 哉汰…。

ちら、と黒板を見れば既に席が割り振られていた。

ふむ、“私”の席は窓際の一番後ろか。


なかなかいい席にしてくれたじゃないか、ヒロのやつ。

よし、今度美味しい飴玉をやろう。


あたしがそこに移動しようとすると、愛奈が止めた。


「どっ、どうしたんですか…。」


「ねえ、夢ちゃんの席ってあそこだよね?」


そう言って窓際の席を指差す。


「はっ、はい…。」


「ふーん、いい席だね‼︎」


何事もなかったかのように微笑む愛奈。

けど、明らかに落胆してる。

こいつの目的の、佐伯に近づくチャンスが少ないからかな?

けど、多分彼女はまだ私を切らない。

私を切ってしまえば、ここに来る理由を失うから。


きっと彼女の目的は、月光。

近づいて、惚れさせ守られ愛されたいのだろう。

彼らの力は強大な分、危険だが同時に権力を得られる。


そう考えて近づく女は少なくないが、ただ近づくだけではそこらの女と変わらない。

できるだけ印象をつけたいところだろう。


…まあ、あくまで憶測の域を越えないけど。

チラリとバレないように、佐伯へと視線を移す。