きょ、教室にいなかったのか……。


ドキドキする胸を押さえながら、必死に心を落ち着かせる。


ドアの前での挙動不審な行動を見られてしまったのかと思うと、恥ずかしくて逃げ出してしまいたい。



「俺の席こっち……」

「は、はいぃ~っ……」



そんな私にはおかまいなしに、相変わらず無表情の水沢君が教室へと入っていく。


「そっち座って」と水沢君の前の席の人のイスを示され、慌てて相向かいになる形に直し腰をおろした。



「…………」

「…………」



静寂が二人以外誰もいない教室を包み込む。


もともと口下手な私にくわえ、一緒にいるのが硬派でクールな水沢君なのだから仕方ない。



付き合わせちゃってるんだから、私が何か言わないと……!



なんとなく気まずい沈黙を打開しようと焦った私の口から飛び出したのは……



「師匠!」



これまたなんとも恥ずかしい一言だった。