「でもっ……だけどっ、どんなに辛くても逃げたりしちゃいけなかったんだ……。
忘れたりしちゃいけなかったんだよねっ……っ」



私の頬を、一筋の熱いものが流れ落ちる。



「っ! 雫、あんた泣いてるのっ!?」

「!? えっ?な……みだ……?」



恐る恐る頬に触れると、温かくて懐かしいぬくもりが指先から手のひらへと伝わった。



「あ……たし……泣いてる……?あたし泣いてるっ!」

「えっ?雫?」



瞳から次々と溢れる涙を愛おしむように手の甲で優しく拭うと、私は鞄を握りしめ玄関へと駆けだした。



「お母さんっ、教えてくれてありがとうっ! ごめんね、私もう学校行かなくちゃっ!」



そう言って急いで家を出ようとする私を、お母さんが可愛いピンクのナプキンに包まれたお弁当を抱えて追いかけてきた。



「雫っ、お弁当お弁当っ」

「おっと忘れてたっ! 唐揚げお昼に食べるの楽しみにしてるねっ」



とびきりの笑顔でお母さんに告げる。



「うん、わかった。気を付けて行ってらっしゃいっ」

「はーい! 行ってきまーすっ!」



元気よく外へと飛び出した私は、ジュン君の待つ学校へと急いだのだった。