カラカラカラ
「ただいま……」
「あら?おかえり。早かったのね……って、あんたどうしたの!?ずぶ濡れじゃないっ」
「うん……」
たまたま廊下にいたお母さんが、私を見るなり血相を変えて駆け寄ってきた。
「傘……持って行くの忘れちゃって……」
「大変っ! とにかくタオル持ってくるからそこで待ってなさいっ」
バタバタと慌てた様子でお母さんが洗面所へと消えたかと思うと、大きなバスタオルを抱えてすぐに戻って来た。
「あぁもうっ。この子は本当にバカなんだからっ」
そう言って、私の濡れた髪をワシャワシャと拭いてくれた。
「うん……。そうなの……。私、バカなの……」
「えっ?」
消え入りそうな小さな声で呟いた言葉は、お母さんに届いただろうか……?
手を動かしつつも、驚いた様子でお母さんが何かを言っている。
「雫、あんた……」
えっ……?何?お母さん、何て言ってるの?
こんなに近くにいるのに、お母さんの声がやけに遠くに感じて……よく……聞こえないよ……。
すごく……寒い……。
それになんだか……目の前も……真っ暗……。
そう思った次の瞬間、私の意識は暗闇へと吸い込まれたのだった。