初めての遊園地デートに緊張して眠れなかったなんて言えない。


そんな事を、沙耶ちゃんたちとの待ち合わせ場所に向かっている最中考えていた。2人じゃないのは分かっているけど、自分で思っていた以上に新鮮で楽しみだったらしい。


昨日の夜は、桂馬とメールをしていたけれど、いつもと同じ時間におやすみってメールを終えた。その後も私は全く眠れなかったんだけど。


寝坊しそうだったところをお父さんが起こしてくれた。普通は高校生の娘が彼氏とデートなんて嫌がるだろうけど、うちのお父さんは何も言わない。


それどころか、時間に遅れないように起こしてくれたり、迎えに来たけど少し待たせてしまった桂馬の相手をしてくれたり、すごく協力的。


父子家庭だからなのか、母親代わりもするつもりなんだろう、私の事を理解してくれようとしている。そんなお父さんに応えたいって気持ちもあって、桂馬の事はちゃんと紹介している。


放課後遅くなるときも、こうやって出かける時も、ちゃんと報告してきている。少しでも安心してくれるように。


桂馬もそんな私の気持ちを汲み取ってか、度々顔を出してお父さんに挨拶をしたり話をしてくれたり、と気を使ってくれている。


そんな娘想いのお父さんに、女の子なんだから髪型くらいちゃんとしなさいとか、その服は似合ってないとか、辛辣な言葉を受けながら、送り出されてきた。





「ごめんね、桂馬、待たせちゃって」


これが今日桂馬を待たせた理由。


「俺は大丈夫だよ。またお父さんからダメだし?」


クスクスと笑いながら聞いてくる桂馬に、無言のままうんと頷いた。


「時間もゆとりを持ってたから気にする必要ないし」


きっとこうなる事を桂馬は予測していたんだろうな。沙耶ちゃんたちとの待ち合わせ時間から逆算しても、早すぎるくらいの時間だった。


「……ありがとう」


声にするのが恥ずかしくて、伝えたかった言葉はすごく小さなものになってしまった。


でも、きっと大丈夫。桂馬なら……


「気にするな」


ほら、どんなに小さな声も聞きとってくれる。こんなところも、やっぱり好き。


隣を歩く彼の大きな掌に私の掌を重ねて、そっと指を絡めた。そうしたら、今度は桂馬が指にぎゅっと力を込めた。


このまま2人の距離が離れなければいいのに。