――ピンポーン


食事も終わり、バタバタと後片付けまでしたところで、玄関からチャイムが鳴った。


「俺が出てくるよ」


きっとお父さんの迎えが来たんだろうと、私が出ようとしたところ、桂馬は私を制止してさっさと玄関に向かってしまった。


あと少しだし……一人キッチンに残されてしまった私は、残っていた食器の片づけをちゃかちゃかと済ませることにした。


ここまでは済ませていきたいから。洗った食器の中には、勝家さんが使っていたグラスも含まれている。直観的にこのグラスは早急に片付ける必要があると思ったから。


急に頭を過ったことだから、自分でも何でそんな風に感じたのかは分からない。とにかく、訪問者のことは私たちだけの秘密である必要がある……たぶん。


桂馬の両親に悟られないように、不審な数のグラスは残しておかない方がいいだろう。


「千夏ー」


食器棚の扉を閉めたと同時に、玄関から桂馬の呼ぶ声が聞こえてくる。


「はい、はーい」


適当に返事をして、床に置き去りにされていた鞄に手を伸ばす。今日は鞄の中から何も取り出してはいないから、特に帰り支度も必要なかった。


ゆっくりと歩き、リビングを抜けるとスーツ姿のお父さんと桂馬が立っているのが見えた。


お父さんの手にはコンビニの袋が提げられていて、黒っぽい入れ物が透けて見えてしまっている。


あー、しまったな。きっとあれはお父さんの夕飯というか、夜食。桂馬の事ばかりで、お父さんの食事までは気が回っていなかった。


申し訳ない気持ちが、私の胸の中を埋め尽くしていく。


「おまたせ、お父さん帰ろう。桂馬、お邪魔しました。またね」


何も気づかないふりをして、靴を急いで履き、お父さんの隣に並んだ。そして、桂馬に別れを告げてお父さんおと2人で家路に着いた。


こうやって2人並んで歩くのはいつぶりだろう。いつの間にか私の隣にいるのは桂馬が当たり前になっていた。
お父さんの事ももっと考えなきゃいけないな……疲れた様子の背中を見ながら後悔した。


よし、罪滅ぼしってわけじゃないけど、明日はお父さんのために張り切って家事をしよう。うん、決めた。それがいい。


退屈な夏休みの一日の予定が決まった。