「……ここを訪れたのが今日でよかった」


話し終えた後、もう温くなってしまっているであろうお茶を一気に喉に流し込んで、勝家さんが漏らした。どんと音をたてながら置かれたグラスには小さくなった氷だけが残されていた。


「考えなしにここに来たけど……父さんに会って後悔するのは俺なのに、後先考えずに行動しちゃったから。だから、父さんがいない、会えない日でよかったって今は思うよ。それに、桂馬君と千夏ちゃんに会えたから。これが一番でかいかな」


「俺たち以外にも覚えている人が居るなんて、たまたま俺だけ残っていて良かったって思います。家族がいる日だったらこうやって話すきっかけもなかっただろうから。偶然に出会えて、本当に良かったです。な、千夏」


やっぱり、同じ想いだったんだ。2人の言葉を聞きながら熱い思いが込み上げてきていると、桂馬に同意を求められた。


「私も!少し前まで私一人だけ異常で、孤独だ、孤独だと思っていたのに……一人じゃないって分かって、同じ人に出会えて本当に嬉しいです」


2人と同じように、感じていたことを素直に話した。だってこの2人になら自分を偽る必要がないと分かったから。
興奮してしゃべったからか、急に喉の渇きを感じた。


先ほどの勝家さんと同じように、私も目の前のグラスに手を伸ばすと、一気に飲みほした。案外冷たいままだったお茶が、さーっと喉の奥を通り抜けていくのがよく分かった。


冷たいお茶のおかげか、少しずつ冷静に今日の出来事を頭の中で整理した。


近い範囲に3人も存在した。……もしかしたら、他にもいるのかもしれない、私たちの仲間が。


だれも声を大にしていう事はないから、お互いに気づいていないだけで、本当は近くにもっといるのかもしれない。


だとしたら、その人たちにも教えてあげたい。きっと一人で苦しんでいるはずだから。一人じゃないよ、悲しみや辛さを共有出来る人が存在するんだよって。