「ふうー」


気まずさがピークに達した頃合いで、私たちの正面に座る彼が大きく息を吸い、そして大きくゆっくりと吐き出した。


「えっと…あの……、覚えているんですよね?」


何を覚えているのかとかはなく、少し漠然とした質問だった。けれど、私と桂馬は一度顔を見合わせ、そしてゆっくりと肯いた。


「消える人と、覚えていない人たちの事ですよ?」


今度は具体的な質問だった。私たちの存在が信じられないとでもいうように、丁寧に確認をされた。


「私たち2人とも覚えています。消える人たちの事をも、周りがそれを覚えていない事も。過去に家族もいなくなりました」


遠回しばかりでは日が暮れてしまう。


高校生とはいっても、それほど暇ではないから、極力早く話を進めて、このまどろっこしい空気とはおさらばだ。いつまでも足踏みしてはいられない。


「俺も一緒です。まさか俺と同じ境遇の人がいるなんて考えもしなかったから、驚きが大きくてまだ頭がパニック状態です」


彼の言葉本当だろう。放心状態、という言葉がよく似合う。


「……そうだ、あんな怪しい行動しておいてまだ名乗っていませんでしたね。名前は勝家、福卯(ふくう)高校の3年です」


よろしく、と勝家さんは頭を下げた。確かに私たちは互いのことを知らないままだった。


「えっと、俺は桂馬です。こっちは千夏。2人とも礒江(いそえ)高校の2年です」


桂馬が私の事も紹介する。最初の印象は正しくて、やはり勝家さんは1つしか変わらない同年代だった。