「すみません、本当気にしないで下さい」


桂馬の申し出を断り、帰るためだろう目の前の人物は踵を返した。


「どうせ誰も変化に気づいていないだろうし……」


「「……」」


耳を澄まさないと聞き取れないような小さな声で彼は最後にぼそりと呟いた。聞き逃さなかった私と桂馬は、2人ともその言葉が引っ掛かり顔を見合わせた。


だって今の発言はもしかして……いや、ありえないよね。


でも、桂馬と私。こんなに近くに同じ人が居たのだから、他に存在していてもおかしくはない。


確認すればいいだけの話なのに、それが私には出来ない。もし違っていたら……その考えが邪魔をする。


そんな風に頭の中で葛藤している間に、彼は歩き始めてしまっている。どうしよう、今しかチャンスはないのに……。





「あの!」


聞けずにいる私とは違って、桂馬は即座に行動した。背中を向けて帰ろうと歩き出していた所を呼び止めていた。


「どうしました?」


呼び止められるとは思っていなかったようで、不思議そうな顔をしながら振り向いていた。


「お尋ねしたい事があるんですが……もしかして、覚えている人ですか?」


私的には、随分とストレートに聞いたなと思った。でも、変化に気づかない人にとっては全く意味の分からない言葉だろうから、適切な聞き方だとも思う。私たちと同じ人にだけ伝わればいい。


「え……もしかして……」


立ち止まったままの彼は口をぽかんと開けたまま、桂馬と私の顔を交互に何度も何度も確認している。彼の反応から、答えは明らかだった。


伝わった時点で……決まりだ。彼も私たちと同類。


「とりあえず、中で話しませんか?ここじゃちょっと……」


桂馬からの提案で、自分たちがどこにいたのか改めて確認する。


まだ家の中にも入らない玄関先でずっと話していたけど、これ以上はここで話すべきではないと、私でも理解した。