一緒に遊びたい!と声をあげていた奏太君をなだめて、足早に桂馬の部屋へと移動した。もちろん2人きりになるためだ。


部屋の中に入って2人並んでベッドに腰を降ろしても、何から話していいのか分からずに、互いに無言のまま少しの時間が過ぎていった。


静かな部屋の中では、時計の針の音だけが異様に大きく聞こえている。


「なあ……」


「……」


先に言葉を発したのは桂馬の方だった。けれど、なかなかその続きは出てこない。私は静かに続きを待った。


「奏太がパパって言ったって事はさ……そういう事だよな」


俯いてしゃべりだした桂馬は、床の一点を見つめたまま視線が一切動かないでいた。


「奏太の中でさっきの人がお父さんってことは、あの人が俺のお父さんになったって事だよな」


私のそう感じた。あの人が桂馬のお父さんになった。


認めたくはないけれど、他の理由もかける言葉も見つからない私は「うん」と肯くしか出来ないでいた。


「……俺らの父さんは?変わるなんてあんまりだと思わないか。だったら、消えてくれた方がよっぽど納得いくのに」


私にとっても初めてのことだと思う。実は気づかない所で起こっていたかもしれないけど、人が消えることはあっても代わりの人が現れたことは一度もなかった。


桂馬の言っていることも、同じ“異物”の私にはよく分かる。消えることへの気持ちの向き合い方は、今までで少しずつ培ってきたつもりだ。


「あんまりだろ……」


今にも泣き出しそうな、震えた声に、私もつられて泣きそうになった。


いつもより小さく見える桂馬も、指先が青白くなるほど強く握りしめているも掌も、見ているのが辛くなった。