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「……決して羽目は外さないでくださいね。あっ……課外対象者だけ残ってくださいね。では、良い夏休みを」
今日は終業式。明日からは夏休み。和樹君が消えてからも、彼は初めから存在しなかったように、当たり前に毎日が過ぎていった。あれから私たちの周りからは誰も消えていない。
だから、これといってあの‟異常“について話してはいない。なんとなく、気軽に触れていい話題ではない気がするから。
私たちに影響がなければこのままでも仕方ないって思っていたから。それにちっぽけな私たちには何もすることなんてできないと思うから。
傷つくくらいなら、見て見ぬふりをして過ごしたほうが楽だから。
ただ、明日からの夏休み、少し不安だ。だって、長期間会わないうちに誰かいなくなっていたりするから。幸いには今までは面識のない人たちばかりだったから良かったけど……今年もそうだといいな。
私が考え事をしているうちにホームルームは終わっていたらしく、周りのクラスメイト達のたてる物音にはっとした。隣の席の生徒が立ち上がった音に驚いてしまった。
私も帰る準備しなきゃ。慌てて鞄の中に必要なものを詰め込んだ。教科書は……いらないか。
桂馬に借りればいいやと、一度取り出した教科書を机の中にそっと仕舞った。
「……おい。それは鞄の中だろ?」
次に顔を上げると、目の前の人物によって出来た陰で、暗くなってしまっていた。誰かなんて、顔を見なくても声だけで分かる。
「いいじゃん、桂馬は持って帰ってるんでしょ?」
にっこりと笑いながら、さっきよりも少し視線をあげて彼の目を見ながら答えた。
借りるつもりだから。はっきりとは言わないけどそういうニュアンスを込めて。顰めた眉に、意図が伝わったのだと感じで、そしてその表情が可笑しくて、ついつい口角が上がる。