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「……千夏、この店にしようか」


聞き馴染みのある声に呼ばれ、意識がはっきりとしてくる。暗闇が一気に光に包まれるような感覚だった。


何が起こったのかと慌てて周りをきょろきょろと見回すけれど、さっきまで目の前に広がっていたはずの光景は綺麗さっぱり消えてしまっていた。目を逸らしたくなる様な光景だったはずなのに、それはそれは綺麗さっぱりと。


え、どうして……一体何が起こったの?まさか夢を見ていた?いや、そんなはずは……だって、歩きながら寝ていたとでも言うの?


こんなにもはっきりと記憶に残っているのに、夢だったなんてありえない。……じゃあ、どうして?


たくさんの疑問が頭の中を埋め尽くしていく。


「どうしたの?そんなに疲れちゃったかしら。さっ、少し休みましょう」


そんな私の様子を不思議に思ったのか、ばあちゃんは目の前の店に入ろうと勧めてくる。


あっこの店は……さっき3人で入ろうとしたお店だった。


私が休憩しようとおねだりして、じいちゃんがここにしようって言っていた店。……そうだよ、じいちゃんは?


もしもさっきの光景が私の見た夢なら、きっと元気でいてくれるはず。


それなのに、いくら私の隣とばあちゃんの隣を見ても、見つけたい人は見つからない。





「あれ?じいちゃんは?」


私の言葉にたった今までニコニコと優しく笑ってくれていたはずのばあちゃんから、一瞬で笑顔が消えてしまった。


「どうしたの千夏?訳の分からないことを急に言い出して」


可笑しなものでも見るような目でそうばあちゃんは言った。私の方が訳が分からない。


次の言葉を探すけどみつからなくて、何も言えないでじっと目を見つめた。


「じいちゃんって……うちにはいないでしょ?千夏だって知ってるでしょうに」


おかしな子ねと、苦笑しながら言われて、頭をそっと撫でられた。