男は自分の首を切っていた。周囲からは叫び声が聞こえてくるけれど、あまりの出来事に私は声が出せないでいた。





――ドサッ


「……え?」


やっと出た言葉は、私のすぐ傍から聞こえてきた鈍い音に対してのものだった。


私の隣には倒れるように蹲るじいちゃんがいた。


よく見ると、胸を両手で押さえ、手は真っ赤に染まっている。地面には少し黒っぽい赤がじわじわと広がっていた。


刺された、刺された、刺された……じいちゃんが刺された。


“刺された”その単語だけが頭の中を占領していって、混乱して何も考えられなくなっていた。


「あなた、あなた、あなた」


ばあちゃんはじいちゃんへと駆け寄って屈みこみ、肩を揺さぶりながら何度も何度も呼んでいた。だけど、じいちゃんは何も答えてくれない。動かない。流れる赤だけが動いているように見えた。


私はただ見ていることしか出来なかった。だって、何が起こったのか私の頭では理解できなくて、なんでこうなったのか理解できていないから。


考える事を頭が嫌がっている、そんな風にさえ感じた。